目覚めた時は既に明るかった。
 いつもポニーテールにしている長い髪を惜しげもなくシーツの上にまき散らして彼女は目覚めた。
 光の洪水に思わず目を細める。
 見慣れない天井。
 隣に眠っていたはずの男の姿はない。

   ───初めてかな……人が側にいて、これほど熟睡できたのは……。

 再び目を閉じる。
 体のけだるさが戻ってくる。
 ここしばらくの寝不足も手伝ってか、眠気の揺り返しが来る。

   ───人の温かさなど……忘れていた。
   いや……忘れようとしていたのかも知れない……。
   無理矢理……全てを──。

 夢を見るかのごとく、昨夜のことが脳裏によみがえる。

   何を……悩んでいたのだろうな、私は。
   人を遠ざけることばかり考えて──己を隔てて──。
   長い時の間に……すっかり臆病になってしまっていた……。
   これほど確かなものが……あろうはずがないのに──。
   ユッシ……。

 疲労感も手伝って、再び眠りの縁へと落ちていく。
 口元に微笑みを残して。


 次に目覚めた時、男は隣にいた。
 見上げると、北欧の空のような瞳が優しげに見つめていた。
「おはよう、シャナ。──よく眠っていたな」
「──おはよう……ユッシ……」
 シーツを纏い、上体を起こす。
「ああ……久しぶりによく眠れた……」
 自然に微笑みが浮かぶ。
 ユッシも柔らかく笑む。
 ついとユッシがごく自然な所作で手を伸ばした。
 頬に手が触れる。触れた部分が熱い。
 名を呼ぼうとした唇が塞がれる。短いキス。
 熱い想いが蘇る。
 たとえ何があろうとも、失いたくない者への想い。
 この感情を何と呼ぶのだろう──。

「起きるか?珈琲が入っているが」
「ああ、そうだな」
 微笑む。
 時は十分にある。
 ──何れ自ずと判る時も来るだろう──。

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Since 2000/05/06
Update 2002/09/14
written by アイラン=リウフェン[学籍番号H152471]
シャナ=D−シャーナ